小学英語、多難な必修化…自治体間で取り組みに差
◆指導員の人件費重荷
学習指導要領の改定に伴い、2011年度に必修化される英語教育で、自治体間で取り組みの差が広がり始めている。3年後の実施に向け、教員を指導方法に慣れさせようと、新指導要領に合わせて小学校5、6年生で年35コマ(1コマ45分)の授業を行う地域がある一方、人件費を理由に必要な外国語指導助手(ALT)を確保できず、数コマにとどまっている地域も多い。中には、在住外国人らを臨時講師に雇ってしのぐ自治体も。今後、3年間で英語教育への取り組みの差は、さらに開く可能性もあり、専門家らは教育現場での早急な対策を訴える。
■先進地域
京都市では今春、小学校5、6年生で年各35コマの英語活動を始めた。02年度から約20校でモデル的に取り組み、独自教材を作るなど、必修化をにらんだ試みだ。07年度は全校(179校)が平均22コマをこなしており、市教委は「必修化までに、教員の経験を積ませたい」と狙いを話す。
国の構造改革特区の取り組みも盛ん。広島市は今年度、18のモデル校で新指導要領の倍の年70コマを計画。10年度には、全小学校に広げる。04年度から全学年で年34~35コマを実施している東京都荒川区も「必修化に不安はない」と自信を見せる。
■年1コマ
07年度の文部科学省の調査によると、5、6年生の英語授業の全国平均は約15コマで、35コマを超える学校は約4%にとどまり、約10%が年1~3コマという。
最大の問題はALTの人件費の確保。文科省は、35コマのうち3分の1程度にALTが補助に付くのが望ましいとの基準を示しているが、人件費は自治体の負担で、多くは十分な予算が確保できないのが現状だ。
大阪市では、今年度の小学校のALT人件費は約2000万円。7人を雇用するのが精いっぱいで、299の全小学校の6年生だけにしか授業ができず、しかも年6コマ。5年生の授業は、中学校のALTを派遣してやりくりするが、昨年度の実施率は全校の約30%。市教委は「もっと必要なのはわかっているが、増員できず頭が痛い」と嘆く。
■自助努力
そんな中、松江市は1998年度から、英語の出来る市民を「英語活動指導協力員」として募集し、全34の小学校の英語教育に当たらせている。ALTより割安の半日当5500円だが、商社や銀行など海外駐在経験のある日本人や、在住外国人の主婦など現在、19人が登録。平均年17コマのうち、ほぼ半分をALTが担当し、残りを指導協力員がフォローする。市教委は「地域の人を活用することで、学校教育への理解や関心も高まりつつある」と効果を指摘する。
英語活動の研究指定校の大阪府河内長野市立天野小では、ALTに加えて、中学校の英語教諭を招き、積極的に取り組んでいる。
小学校の英語教育に詳しい竹内理・関西大教授は「小学校教諭が英語に慣れるには時間が必要で、のんびりと構えている時間はない。財政問題など諸事情に合わせて工夫し、出来るだけ早く取り組む必要がある」と話している。
◇英語の必修化
小学5、6年生を対象に年各35コマの授業を行う。英語のコミュニケーションに慣れるのが目的で、「話す・聞く」に重点を置き、「読み・書き」は行わない。中学校の英語とは異なり、「教科」ではなく、成績評価はしない。文科省が作成した教材「英語ノート」(試作版)には、2年間で285の単語と、50の表現が盛り込まれている。
(2008年5月2日 読売新聞夕刊)
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