市民の足をどう確保するか
大都市でない限りは、どこの地方でも鉄道やバス路線の維持に頭を悩ませていることだろうと思います。御多分に洩れず、和歌山市もその一つです。
「たま駅長」で有名となっている和歌山電鐵貴志川線もその一つです。元々は南海電鉄が運営していましたが、累積赤字から平成15年に廃止の方針を表明しました。その後、沿線住民を中心に「貴志川線の未来を”つくる”会」が結成され、貴志川線存続の活動が始まりました。
この会の注目すべきところは「乗って残そう貴志川線」を合言葉に、沿線住民が利用して存続させていくための活動を今日においても行っているところです。
往々にしてこういう会は圧力団体となって、行政に税金から補助金を出すよう求めてくるだけのものが多いのですが、この会は異なりました。
現在、和歌山市は紀の川市と共同で、貴志川線運営の赤字補填、つまりプラマイゼロになる分の補助を行っています。しかしこれも10年という期限付き。残り3年を切っています。
つくる会では補助のない運営を目指すべく、「チャレンジ250万人」と掲げて活動を展開しています。年間250万人の利用があれば、独立採算で運営が可能です。最大の敵は「人口減少社会」なのかもしれません。
もう一つ、和歌山市で4月から始まった取り組みがあります。市南部の紀三井寺団地を中心とした地域で、地域バスが走り始めました。写真は、使用するバスのお披露目式のときのものです。
紀三井寺団地には路線バスが走っていましたが、平成21年10月に廃止となり、以降公共交通の空白地となりました。高度経済成長期に形成された団地であるため、高齢世帯も多く、路線バス復活を渇望する声が高まってきたそうです。
平成23年6月には、地元住民からなるバス問題対策委員会が設置され、話し合いがもたれてきました。結果、1年10ヶ月を経て地域バスが運行されるようになりました。
ここでも注目すべきは、運営の主体は地域住民からなる「地域バス運営協議会」であり、行政ではないということです。
和歌山市は地域バスの運行に当たって、バスの車両とバス停を提供しました。バス停の場所やバスの運行ダイヤは協議会が住民の要望を聞き、話し合いで決定しました。また、運営に関して市は補助を出しますが、乗ってもらえなければ意味がないので、運賃収入が一定割合以上なければ補助しないと定めました。廃止の意思決定も協議会で行います。
このように、運営についての大部分の権利を地元が持つ代わりに、乗るという義務も積極的に背負ったわけです。このようなやり方は、京都でも見られますが、全国的には始まったばかりです。
和歌山市の事例で共通することは、ともに主体が住民であるということです。「これらは行政の仕事ではないか」とお感じになる方もいらっしゃるかもしれませんが、それは違います。必要ならば必要なりの自助努力をしていただかなければなりません。税金にも限りがあります。いくらでもあるわけではありません。ましてや、市内全域から集められたものです。一部の地域に集中して投下することはできないと考えます。
貴志川線も紀三井寺団地の路線バスを運行していた会社も「民間企業」です。利益が上がらなければ、止めなければならなくなります。しかし同時に「公共交通」を掲げています。将に「公共」と「民間」の狭間で苦しい立場に立たされていることも理解しなければなりません。
紀三井寺団地の地域バスは1ヶ月が経ったところです。地域の足として定着するよう願うばかりです。
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