引っかかり
ちょうどひと月前から非常に引っかかっていることがあります。少しずつ頭の中を整理していましたが、この連休中文章にまとめてみました。
報道ではあまり取り上げられませんでしたが、国会ではある2つの国際協定が承認されました。正式名称は「原子力の平和的利用における協力のための日本国政府とアラブ首長国連邦政府との間の協定(略称:日・UAE原子力協定)」と「平和的目的のための原子力の利用における協力のための日本国政府とトルコ共和国政府との間の協定(略称:日・トルコ原子力協定)」という2つの国際協定です。
これらはともに、今年の1月24日に衆議院へ付託され、4月2日外務委員会で審査が終了し承認、同4日衆議院本会議で承認後、直ちに参議院へ送られました。参議院では9日に外交防衛委員会へ付託、17日には委員会審査が終了し承認、翌18日には参議院本会議で承認されました。
これらの協定は一体どのような内容なのか。簡単に書けば、日本がUAEとトルコ両国に原子力発電所の建設の資材や燃料、運営の技術などを提供するというものです。
私の引っかかりは、なぜ今、日本がUAEとトルコ両国に原子力発電所の技術などを提供するのか、ということです。福島第1原発の惨禍が未だに収束せず、13万人あまりの原発避難者がいる中で、その技術を国外へ出すのか。
確かに、日本が持つ原発技術は世界一かそれに匹敵するものだと思います。一方で、散らばってしまった放射性物質の回収や除染の技術も確立していません。放射性廃棄物の処理も現時点では「貯蔵」という方法しかなく、放射能を抑えるのは「日にち薬」しかありません。フィンランドでは「オンカロ」という、固い岩盤の地下に、世界で唯一の高レベル放射性廃棄物の最終処分場を建設しています。生物にとって安全なレベルにまで放射能が下がるまで10万年。それまで地中の奥深くに閉ざそうというものです。1000世紀を跨ぐ壮大な計画は、現在の人類が成功したかどうかを誰も確認することはできません。
5月5日、日本とフランスが高速炉の研究開発で合意したとのニュースがありました。この高速炉によって、天然ウランと同じだけの放射能レベルになるまで10万年かかると言われている高レベル放射性廃棄物の放射能が300年で下げることが可能になるそうです。しかし、それでも300年はかかるのです。
火山列島・地震大国の日本は「オンカロ」のような施設の設置には向きません。そもそも最終処分できないものを我々は持ってしまったのです。よく「トイレのない家」などと比喩されるのはその点です。
今私達日本人がすべきは、原発の輸出ではなく、放射能や放射性廃棄物を無害なものに処理できる技術を探し出すことです。そのための技術研究は最優先で、相当の費用を掛けてでもすべきであり、人材発掘と育成を今こそしなければならないと思います。これが完遂できるのは、広島・長崎に原爆を落とされ、地震と津波に加えて福島第1原発から放出された放射性物質と戦っている日本にしかできないことだと思います。
また日本とトルコの浅からぬ縁もあり、その始まりが和歌山であるということも忘れてはなりません。
今から123年前の明治23年9月16日、トルコ(当時のオスマン帝国)の軍艦エルトゥールル号が串本町沖で遭難し、乗組員69名が助け出されたものの、残りの587名は死亡・行方不明となった事件が発生しました。これがきっかけとなって、今の日本とトルコの友好関係が築かれています。
そんな親日国のトルコに、最終の出口がない原発技術を輸出していいのか。もしトルコで、輸出した原発が事故を起こし、トルコ国民を苦しめることになったら、そう考えたとき、胸が締め付けられる想いがします。トルコじゃなきゃいいのかという話でもありません。友好国のトルコでも出せない。なおさら、他の国へは出せないという話です。手放しで認めることはできません。
トルコ政府が原発技術の輸出を望んでいるのかもしれません。一方で、原発は必要ないと主張しているトルコ国民もいるようです。日本でもそうであるように、トルコでも賛否両論があって当たり前です。トルコ国民の意思を見極める必要もあると思います。そこに、国際関係、安全保障の課題なども絡んでくるでしょう。アメリカではなく、日本がその役割を担うというところに、隠された意図があるかもしれません。
もう一つの引っかかりは、民主党の態度決定です。
先の協定は4月4日に衆議院本会議で、自民・公明・民主の賛成によって承認されました。その2日前に次のような文書が届きました。
【重要】「日・アラブ首長国連邦原子力協定」「日・トルコ原子力協定」に対する態度決定について(政調会長報告)
政策調査会長 櫻井充
掲題について、昨日の『次の内閣』で議論した結果、以下のとおり決定しましたのでご報告します。
福島における原発事故の災禍や汚染水処理問題等が未だ続いている現状や、輸出時の監視体制が必ずしも万全とは言えないこと等に鑑みれば、原発輸出には慎重に対応すべきと考えます。
そのうえで、国際協力の視点も考慮し、核不拡散や原子力平和的利用のために両協定が必要不可欠であることや政権担当時の経緯等を考えて、両協定に対しては消極的賛成の立場で臨むこととします。
以上
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1月24日に国会へ上程され、時間があったにもかかわらず、意見も聞かれない。決定までにどのような議論がなされたのかも知らされない。それで「こう決めました」という通知だけ送られてくる。果たして、それでいいのかという疑問です。
核の不拡散を進めると言いながら、実際これでは平和的利用目的とはいえ、拡散を進めていることになります。
「政権担当時の経緯等」というのは、おそらく民主党政権時に「原子力の開発及び平和的利用における協力のための日本国政府とベトナム社会主義共和国政府との間の協定(略称:日・ベトナム原子力協定)」を結んだことを指していると思います。しかし、これは東日本大震災が発生する直前の平成23年1月20日に両国が署名し、同年12月9日国会が承認したものです。震災の前後で原子力発電所に対する国民の目線は大きく変化し、環境も激変しました。過去に引きずられて、正しい判断がされていないのではないかという疑問です。
「消極的賛成の立場」という言葉も非常に苦しいものですが、国会(地方議会も同じです)の採決は「賛成」と「反対」しかありません。消極的であっても賛成は「賛成」なのです。実際、日経新聞には「トルコとアラブ首長国連邦(UAE)に原子力発電所を輸出できるようにする原子力協定承認案が4日午後の衆院本会議で自民、公明、民主各党の賛成多数で可決、参院に送られた。」と書かれています。
2月に福島県郡山市で行われた民主党定期大会では、大会宣言を代議員からの提案で、急遽「福島宣言」と名を変え、満場の拍手で承認したはずです。13万人余りの原発避難者の方々は、どう思うでしょうか。
このまま黙ってやり過ごすことができなかったので、書き記しました。乱文をお許しください。
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